
ガーナ国会議長アルバン・バグビン。画像出典:Erasing 76crimes
2026年10月、ガーナ共和国のアルバ・バグビン(Alban Bagbin)国会議長は、東部で開催された広報学会の年次会合において、同国議会が可決した「2025年人間の性的権利および家族の価値法案」(通称・反LGBTQ法案)の制定手続きが極めて拙速であり、条文上に複数の誤りを含んでいることを公式に認めた。バグビン議長は、自身が直接関与しないまま最終段階で駆け込み的に法案が処理され、十分な精査の機会が損なわれたことに異議を唱えたと明かした。一方で議長は法案への支持姿勢を崩しておらず、自らが議会運営に影響力を持つ限り本法案の成立を最優先課題とし、国民的合意に基づき法制化を完遂させると強弁した。
問題の法案は2025年5月29日に議会を通過して以来、法制上の宙吊り状態に置かれており、ジョン・ドラマニ・マハマ(John Mahama)大統領による署名も拒否権の行使もなされないまま停滞が続いている。バグビン議長は、直前の条文修正パッチによって生じた不備を是正するため、次回会期において「第2次審議」を実施し再可決を目指す方針を示したが、同様の審議再開は7月と8月にも予告されながら見送られてきた経緯がある。再審議を巡っては、原案が弱体化されたと不満を募らせる保守強硬派と、議会がさらなる厳罰化条項を盛り込むのではないかと警戒する支援団体「ライティファイ・ガーナ(Rightify Ghana)」との間で対立が激化。議長は本法案の主導者であるサミュエル・ナルティ・ジョージ通信技術大臣の国内外での弁論を高く評価した。
議会で可決された法案の骨子は、極めて広範かつ過酷な刑罰規定を設けている。性的少数者であることを公言または自認した者には最長3年の禁錮刑が科されるが、性的指向や性自認を変えるための「転向カウンセリング」を受容することで収監を回避できる免責条項が盛り込まれた。また、性別適合手術の実施・受療、同性婚の成立、あるいは同性婚式への参列に対しても一律3年の禁錮刑を規定。性的少数者関連の活動に対する資金提供や広報宣伝には3年から5年の禁錮刑が科されるほか、一般市民に対して違法行為の「通報義務」を課し違反者に最長3年の禁錮刑を科す内容となっている。なお、取材・弁護・医療行為に従事する専門職への限定的な免責が定められた一方、同性間の性行為に対する既存の3年刑は維持されている。
政治体制および国際人権法制の観点から分析すると、ガーナにおける法案の迷走は、国内の保守的民衆迎合主義と国際規範との激しい相克を浮き彫りにしている。拙速な立法による欠陥を議長自らが認めた事実は、道徳的感情を拙速に刑罰法規へ落とし込もうとする試みが孕む法治主義的リスクを証明している。世界銀行など国際金融機関による制裁や対外信用の失墜を懸念する大統領府の思惑と、有権者の支持獲得を狙う議会保守派の思惑が交錯する中、再審議の行方は西アフリカにおける法の支配の健全性と少数者の人道的安全を測る極めて重大な試金石となる。
アフリカ編集部:クワメ・メンサー
出典:ライティファイ・ガーナの報告および議会記録を総合
資料出典
ガーナ共和国国民議会公式ポータル:https://www.parliament.gh/
ガーナ司法省および法務総裁事務局:https://www.mojagd.gov.gh/
国連人権高等弁務官事務所西アフリカ地域事務所(OHCHR):https://www.ohchr.org/
